試驗場では、百人にあまる大學生たちが、すべてうしろへうしろへ、ずずずい〜っ

試驗場では、百人にあまる大學生たちが、すべてうしろへうしろへと尻込みしてゐた。前方の席に坐るならば、思ふがままに答案を書けまいと懸念してゐるのだ。


われは秀才らしく最前列の席に腰をおろし、少し指先をふるはせつつ煙草をふかした。われには机のしたで調べるノオトもなければ、互ひに小聲で相談し合ふひとりの友人もないのである。


やがて、あから顏の教授が、ふくらんだ鞄をぶらさげてあたふたと試驗場へ駈け込んで來た。この男は、日本一のフランス文學者である。われは、けふはじめて、この男を見た。なかなかの柄であつて、われは彼の眉間の皺に不覺ながら威壓を感じた。この男の弟子には、日本一の詩人と日本一の評論家がゐるさうな。日本一の小説家、われはそれを思ひ、ひそかに頬をほてらせた。